高騰一転、「暴落」懸念 問われる米の出口戦略2025年6月13日
不足感から高騰が続いてきた米の市況に変化の兆しが出てきた。政府備蓄米の大量放出などで需給が急速に緩みつつあるからだ。暴落を心配する声が産地や取引関係者からあがる中、小泉農相は需給を「じゃぶじゃぶに」と強調する。セーフティネットを強化しないまま米価が暴落すれば、離農を一気に広げかねない。
「ソフトランディングが課題に」
「高騰した小売価格を下げるために小泉農相が一所懸命なのはよく理解できる。他方、来年以降、米価を暴落させず、生産者、消費者、双方からみて適正な価格にソフトランディングさせることが重要な政策課題だ」
経済官庁の政務三役がこう話すと、その場に集まった取引関係者は静かに聞いた。その政務三役は、直接の担当ではないが農政にも通じている。
「高止まり説」に揺らぎ
早ければ25年産米取引の後半、遅くとも26年産出来秋以降、米価は暴落するのではないか。そんな懸念が産地や取引関係者に広がり始めているが、「米価は出来秋以降も高止まりする」との見方にも理由はある。
卸・小売業者は「高く仕入れた物を安く売るわけにはいかない」し、米価が上がってもこれまで、家庭消費は底堅かった。25年産米はすでに「青田買い」競争が過熱し、昨年より高い最低保証額も各地で示され、「出来秋以降も高値が続く」との見方を支える。
だが足元では、米穀機構の消費動向調査で、4月の1人1ヵ月当たり消費量は4611gで前年同月比▲9.4%。うち家庭内消費量は同▲10.8%、中・外食は同▲6.7%だった。農水省のPOSデータにもとづくスーパー店頭の販売量調査でも、5月26日~6月1日 は前年同期比▲6.9%で、4月中旬以降、減少傾向が顕著だ。
2026年6月の在庫は290万t?
政府は1月に公表した需給見通しで、2026年6月末の民間在庫量を178万tとした。ここに放出備蓄米の81万tと25年産の増産分(1月の見通しとの差)36万tを足すと民間在庫は295万tに膨れる。180万~200万tとされる適正在庫を大きく超過し、米価の引き下げ圧力が働く。
昨年の出来秋以降、民間在庫量は前年同月比で45万t前後少ない月が多かった。そこから、米が45万t程度不足していたとしても250万t(295万-45万)となり、やはり適正在庫を超過する。
届かぬ懸念、農相「じゃぶじゃぶに」
日本農業法人協会の調査では、41%の生産者が26年産米の下落を予想しており、30%以上の下落を見通す回答も11.2%にのぼった。齋藤一志会長は「2026年3月ごろに25年産米の期中暴落もあるのではないか」と懸念する。
こうした懸念と、小泉農相の認識には、かなりのズレがありそうだ。
6月10日の記者会見で小泉農相は、「(需給を)じゃぶじゃぶにしていかなければ(米の)価格は下がらない。かなり強い手段を取らないと価格高騰のトレンドは変わらない」と強調した。
毒薬、劇薬の自覚あるか
6月5日の衆議院農水委員会でも、この点が議論になった。
空本誠喜議員(日本維新の会)は、「(政府は)備蓄米をどんどん放出し価格破壊を起こした。農水省は甘く見ているが、(26年6月の)民間在庫量は250万トンくらいになる可能性が高く、ダブつく。暴落が起き、米作りが崩壊する悪循環が起きるのではないか」と危惧を表明し、「今回(小泉農相が)したのは、短期的に私も賛成だが、毒薬、劇薬でもあった。その認識はあるか」と質した。
小泉農相は「備蓄米を随意契約で出したことが劇薬かと問われれば、通常時の対応ではない。一方で、これは日本的かもしれないが、目の前の課題に取り組んでいる時、先のことを心配し過ぎてあまりに悲観的な思いを世の中に広げるといいことはない」と反駁した。空本議員が問うた需給見通しにもとづく暴落リスクが、あたかも「日本人の心配性」に変換されたかのようだった。
急がれる「出口戦略」
JA全中の山野徹会長は6月5日の記者会見で、「裏付けのないまま増産を進めることは需給のバランスが崩れ、水田経営に影響を及ぼすことも懸念される」と述べ、「大幅な供給過剰に陥り、需給や生産者手取りに影響が及ぶ場合は政府備蓄米の適正水準である100万tの確保など機動的な対応が必要だ」と指摘した。
ある卸関係者も「26年秋までを見通せば需給は大きく緩み、在庫が積みあがる可能性が大きい。小泉農相の努力は短期的施策としては理解できるが、備蓄米放出も出口戦略が必要だろう」と話す。
出口戦略を持たぬまま、価格引き下げ一辺倒で走るのは、あまりに危うい。
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